「構想」から「実装」へ
ESA公開シンポジウム2026を開催
「エコシステム社会」の構想を、いかに社会実装へつなげていくか
2月20日(金)、一般社団法人エコシステム社会機構(以下、ESA)は、公開シンポジウム「社会イノベーションの新メカニズム2026 ~混沌の時代のデザインは、エコシステム社会~」を開催しました。企業を中心に100名を超える方にご来場いただき、昨年度のシンポジウムで提示した「エコシステム社会」の構想をどのように具体的な実践へ落とし込んでいくのか、会員や連携・共創団体とともに議論を深めました。
ESAがパーパスとして掲げるのは、つながりによって「コミュニティ・ウェルビーイング」を実現すること。そのためのアプローチとして、「サーキュラーエコノミー」と「ネイチャーポジティブ」をテーマに、人・社会・自然のつながりを育む事業づくりを行います。個別の企業や自治体のみで社会課題に対応することが難しくなっている中、今回のシンポジウムでは、企業・自治体・研究者などが立場を越えて連携し、構想を実装へと進めていくESAの方向性を共有しました。
テーマ別セッション -サーキュラーエコノミー、ネイチャーポジティブ、コミュニティ・ウェルビーイングの実装とは
後半のテーマ別セッションでは、亀岡市の桂川孝裕市長による「エコシステム社会の地域実装」に関するビデオメッセージを皮切りに、サーキュラーエコノミー、ネイチャーポジティブ、コミュニティ・ウェルビーイングの3テーマについて、先行事例の共有と今後の実装に向けた方針の発表を行いました。
サーキュラーエコノミー -資源がめぐり、人がつながる協力回収モデル
サーキュラーエコノミーのセッションでは、「資源がめぐり、人がつながる―協力回収モデルが拓く社会インパクト」をテーマに、会員企業や環境省で実践づくりを進める方々が登壇しました。
ESAのサーキュラーエコノミーTF/J-CEPでは、企業・自治体・生活者の協力による資源循環の取り組み「協力回収モデル」を提示。経済と環境の両面において持続可能な事業スキームを地域に展開していくことを目指し、会員企業が中心となって活動を進めています。
会員企業である花王株式会社と三井住友信託銀行株式会社からは、協力回収モデルに通じる先行事例として「石巻リサイクリエーション」の取り組みが紹介されました。つめかえパックの回収を起点に、市民の行動変容や地域コミュニティの活性化などに取り組んだ約10年にわたる実践です。単なる回収量の拡大にとどまらず、地域との関係性や社会的な波及効果まで視野に入れた取り組みとして、協力回収モデルの可能性を具体的に示しました。
サーキュラーエコノミーTF/J-CEP としては、2025年度に立ち上げた協力回収モデル研究会の成果を踏まえ、次年度よりインパクト評価や資源回収のシミュレータ開発に取り組むことを発表。参画企業の知見を活かしながら、体系化と展開可能なモデルづくりを目指します。
ネイチャーポジティブ -互恵のシステムを共につくるプロセスが価値を生む
ネイチャーポジティブのセッションでは、「ネイチャーポジティブが生み出す自然・地域・産業のつながり」をテーマに、東北大学教授の近藤倫生氏と、同客員教授の藤原啓一郎氏(元キリンホールディングス)が登壇しました。ESAは、シンポジウムに先立つ2026年2月12日、東北大学COI-NEXT ネイチャーポジティブ発展社会実現拠点を推進する東北大学生命科学研究科と連携協定を締結しており、産官学民の連携によるネイチャーポジティブの社会実装を本格化させようとしています。
近藤氏は、「生態系とは相互に支え合う互恵のシステムである」とし、共創の仕組みをつくることが肝要であると述べた上で、自然の状態を見える化する手法として、生物多様性観測網ANEMONEを紹介しました。
「自然愛護とネイチャーポジティブは、似ているようで異なる視点に立つもの。生物多様性が自然の状態や豊かさそのものを示す概念であるのに対し、ネイチャーポジティブは、それを基盤としながら、人と自然の関係性そのものを捉え直し、ウェルビーイングにどうつなげていくかを考えていくことが求められる」と、互恵的に自然とかかわっていく重要性に言及しました。
藤原氏は、企業活動にネイチャーポジティブが浸透しづらい背景について触れながら、複数の環境課題に取り組む際に生じるトレードオフを防ぎ、時間軸のギャップも考慮した「動的な管理」を行う統合的アプローチへの移行の必要性を強調しました。
「ネイチャーポジティブは、一度目標を達成したら終わりという類のものではなく、運用モデルを“資格試験型”から“健康管理型”へ転換する必要がある。健康管理は人任せにできず、面倒だが、動的管理をするからこそトランジションを起こし得る」とし、社会OSの再設計に挑戦できる面白さについて語りました。
ESAとしても、研究機関の知見と企業・自治体の実践をつなぎ、ネイチャーポジティブを理念で終わらせず、実装の仕組みに落とし込んでいきます。
コミュニティ・ウェルビーイング ― 企業人材の地域参画の可能性
ESAが活動を通して実現したいテーマでもある「コミュニティ・ウェルビーイング」。セッションでは「地域で育むウェルビーイング -学び・共生・人生100年のコミュニティ」と題し、企業のミドルシニア人材の活躍に着目しました。
中高年会社員の定年前後の調査・研究や、キャリア開発プログラムを手掛ける定年後研究所の池口氏は、60歳前後を「責任から少し解放され、個人的な実現と達成に向かう時期」である一方、地域に足場がないことで居場所不安が高まりやすい時期でもあると指摘し、その打開策として「越境体験」の重要性を語りました。
サントリーの人財戦略本部の川口氏は、シニア社員の自治体出向などの支援をしている立場から、「55歳頃からポストオフを迎える。キャリアの転換期に、社内外含めた様々な選択肢の中から、自分に合ったキャリアを選択できるようにサポートするのが人事の役目」と話し、自治体でシティプロモーションや風土改革等で活躍する社員の事例を紹介しました。
ESA事務局長を務める野﨑(厚生労働省)からは、ESAが会員自治体・企業とともに準備を進めている企業人材の地域活躍スキームが紹介されました。
地域のコミュニティ拠点をベースに、資源循環の取り組みや企業版ふるさと納税も組み合わせながら、企業人材が地域で役割を持って活躍できるモデルの実証を目指すものです。企業と地域、自治体や企業における部門間(経営企画、事業、人事等)の連携によって、新たな地域運営の仕組みをつくる構想として、領域を越えて共創する枠組みへの参画を会場に呼びかけました。
人間の本質の問い直しから見るエコシステム社会
こうした後半の実装テーマを貫く思想的な土台として、前半には東京大学東洋文化研究所所長の中島隆博氏による基調講演「Human Co-becoming ~共生と循環のエコシステム社会~」と、ESA代表理事・末次貴英とのクロストーク「共進化の作法 ~哲学と実践のクロスポイント~」を実施しました。
中島氏は、現代の日本社会の孤独や分断といった社会問題に触れつつ、「人間は最初から完成している存在ではなく、他者とともに変容し続ける生物である(Human Co-becoming)」と述べ、「共生(Co-becoming)」もまた、根源的な社会性・関係性を発見し、互いが変容していくプロセスが組み込まれるものであると言及しました。
また、「循環」の観点では、これまでの経済システムが、「人間が社会問題を引き起こすことで利益を上げる構造」であったと指摘。「発想を転換し、問題を解決することで利益を上げるシステムへと変えるべきだ」と強調しました。
人間の根源的な社会性に立ち返ることが、社会や経済の変容につながる――エコシステム社会への転換の必然性を問いかけ、シンポジウム全体を貫く視点が示されました。
シンポジウムを経て、ESAは実装フェーズへ
シンポジウムの最後には、ESA統括ディレクターの森本英香よりクロージングが行われ、その後は登壇者も交えた交流セッションを実施しました。テーマを横断した対話が会場各所で生まれ、ESAが目指す「領域や主体を超えた共創」の手応えを感じる時間となりました。
多様なテーマを織り込んだ本シンポジウム。参加者からは「各登壇者がエコシステムの重要性を多角的視点で述べていると感じた」、「ESAが目指す社会像の解像度が上がった」といった感想が寄せられ、セッション間のつながりや、ESAの活動の方向性、実装に向けた具体的なテーマを共有する機会になりました。
事後アンケートでは、ほぼすべてのプログラムで事前の期待以上の満足度が得られるなど、高い評価をいただきました。
今回のシンポジウムを通じて見えてきたのは、エコシステム社会が理念にとどまるものではなく、すでに実装可能なテーマとして動き始めているということです。
「企業がきちんと問題を解決して利益を上げ、資本主義を少しでも良い方向に」
「ひとりの人の力を見くびってはいけない。システムよりも人、そして人がもつ言葉が大事」
クロストークにおける中島氏のメッセージを真摯に受け止め、ESAは、領域や主体を超えて“人”の力を結集し、地域社会が豊かになる活動を生み出すプラットフォームとして、実装に向けた取り組みを進めます。
ESAの活動に関心をお持ちの企業・自治体の皆様へ
エコシステム社会の実現に向けて、ともに歩む仲間を募集しています。
より詳しく知りたい方は、ESA事務局までお問合せください。